この記事は親族が「成年後見候補者」となるケースを前提に書いていきます。
「成年後見制度」は、成人の”意思能力が不十分な人”を守るためにある制度です。
そして常に「本人の利益を最優先させる」ことを考えたものです。
下の表は最近の「成年後見制度」を利用する動機の内訳を示したものです。
1位 | 預貯金の管理・解約 | 40.6% |
2位 | 身上保護 | 21.8% |
3位 | 介護保険契約 | 10.5% |
4位 | 不動産の処分 | 9.2% |
5位 | 相続手続き | 7.9% |
6位 | 保険金受取 | 4.0% |
7位 | その他 | 3.4% |
8位 | 訴訟手続等 | 2.5% |
(最高裁判所事務総局家庭局が公表している、2019年の「成年後見関係事件の概況」による)
成年後見人制度を利用する前に、絶対に知っておくべき事があります
■ 一度、後見人選任を行うと、「動機」の目的が果たせた後も、後見人制度の利用を辞めることは出来ません。(本人が意思能力を回復させるか、亡くなるまで)
■ 本人(被後見人)は、医師や弁護士、会社役員や、公務員の資格を失います。
これらをしっかり踏まえて「成年後見人制度」の利用を考えましょう。
成年後見制度の種類
成年後見制度は、大きく2つに分かれます。
1つは「法定後見制度」で、もう1つは「任意後見制度」です。
法定後見制度は、すでに本人が「認知症」などで、意思能力や判断能力が欠如している場合、利用する制度です。
任意後見制度は、本人に判断力や意思能力があるうちに、将来の「認知症など」に備えて本人が選任して「任意後見契約」を結んでおくというものです。
任意後見制度については、こちらの記事に書いてあります。
法定後見制度
★ すでに本人の判断能力が、不十分な状態に利用する制度
本人の判断能力の程度によって、後見人・保佐人・補助人の3種類に分かれる
本人の状態や事情によって、「後見人」「保佐人」「補助人」になります。
類型 | 本人の状態 |
成年後見人 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 |
成年保佐人 | 判断能力が著しく不十分な方 |
成年補助人 | 判断能力が不十分な方 |
判断が難しい場合は医師による鑑定を行います
鑑定料は家庭裁判所に「成年後見開始」を、申し立てた人が支払います。
2019年の実績より (最高裁判所資料)
■ 成年後見制度を利用した人のうち、鑑定が必要になった人は7%
■ 鑑定料は5万円以下のケースが54%、10万円以下のケースが95%だった
■ 鑑定期間は1ヵ月以内のケースが55%
ただ、申立て時に提出する診断書に「補助相当」となっている時、鑑定は行われない事が殆どで、全体でも約1割程度のケースしか鑑定を要請されないようです。
成年後見制度の利用の流れ
法定後見制度は、本人(被後見人・被保佐人・被補助人)が既に意思能力がなくなっている場合に利用する制度です。
本人に意思能力があるうちに「任意後見契約」を結んでいた場合、「任意後見制度」を利用します。
任意後見制度については、こちらの記事に書いてます。
その流れを解説します。
家庭裁判所に申し立て
まず初めにするのが、本人(被後見人)が住む(住民票がある)地域の家庭裁判所に、必要書類を持って「申し立て」をする事です。
申し立てができる人
■ 本人
■ 配偶者
■ 4親等内の親族
□ 身寄りがない人は、住んでる地域の市町村長
申立てに本人の同意がいるかどうかは、次の通りです。
類型 | 本人の同意 |
後見人 | 必要無し |
保佐人 | 必要無し |
補助人 | 必要あり |
申し立てに必要な書類
※ 保佐人、補助人は提出内容が違います。
※ 各家庭裁判所によっての多少の違いがあります。各家庭裁判所に問い合わせをしてください。
■ 申立書類
(リンクは東京家庭裁判所のページですが、書式は各家庭裁判所によって違うので、本人の住民票がある家庭裁判所からダウンロードしてください)
■ 本人の預金通帳のコピーまたは残高証明書
■ 生命保険の保険証書
(今解約したら、いくら戻るかを証明する「解約返戻金見込み証明書」…生命保険会社から取寄せ)
■ 本人が保有する不動産の「登記事項証明書」…法務局で登記謄本を取得
■ 本人が保有する不動産の「固定資産評価証明書」東京23区は「都税事務所」で、そ以外は市町村役場
■ 本人名義の自動車があれば「車検証コピー」
■ 本人の戸籍謄本
■ 後見人候補者の戸籍謄本
■ 本人の住民票
■ 後見人候補者の住民票
■ 本人が「後見登記」されてない事の証明書…法務局で取得
■ 本人が知的障害者の場合「愛の手帳」のコピー
「申し立て」の書類は、本人が住んでる地域の家庭裁判所にもあるし、その裁判所のホームページからダウンロードもできます。
後見人が「希望した人でない」という理由では取下げは出来ません
鑑定について
申立てで提出した診断書とは別に、鑑定を行うことがあります。
2019年の鑑定を行ったケースは全体の7%、2018年は全体の8.3%と、1割弱の人が鑑定を行っているようです。
鑑定する医師は「主治医」が推奨されます。
鑑定料は概ね5万円前後で、10万を超えるケースは全体の2%くらいです。
鑑定期間は3ヵ月以内のケースが殆どで、1ヵ月以内が半数以上を占めています。(2019年度)
参考元 成年後見関係事件の概況 (最高裁判所事務総局家庭局)
本人調査について
補佐では、申立てに本人の同意は「不要」とありますが、本人調査を行う場合はあります。
保佐人に「代理権」を与える場合、本人の同意も必要になります。
原則、家庭裁判所で行いますが、入院などで不可能な場合は、裁判所の担当者が出向いて行います。
費用について
ここでは「申立て人」が支払う費用に特化して書いていきます。
□ 申立て手数料 800円(収入印紙)
□ 郵便切手 連絡用 3270円 (東京家庭裁判所の場合)
(内訳:500円×3,100円×5,84円×10, 63円×4,20円×5,10円×6,5円×2,1円×8)
□ 後見登記手数料 2,600円(収入印紙)
■ 本人の戸籍謄本 450円
■ 後見人候補者の戸籍謄本 450円
■ 本人の住民票 300円
■ 後見人候補者の住民票 300円
■ 本人の診断書 1万円前後
■ 本人が「後見登記」されてない事の証明書 300円(収入印紙)
□ 鑑定料(必要となった場合) 5万円~10万円
■ 登記事項証明書 600円(収入印紙)
■ 固定資産評価証明書 400円
※ □ で始まる項目は、本人の支払いでも可
成年後見人の仕事内容と権限
この記事では「後見人」の仕事と権限の範囲について書いていきます。
本人の状態によって「後見人」「保佐人」「補助人」に分かれますが、「保佐人」「補助人」については、こちらの記事に書いています。
保佐人について
補助人について
成年後見人の仕事内容
「後見開始の審判」が下りると、後見人として、業務をはじめることになります。
そのために先ず法務局で「成年後見登記事項証明書」を取得します。
これが「成年後見人」であることの証明書になります。
そして最初の仕事は、本人(被後見人)の「財産目録」と「収支予定報告書」の作成で、1ヶ月以内に家庭裁判所に提出します。
また取引のある金融機関で、後見人が登記された「登記事項証明書」を持って、諸手続きを行います。
また、本人がお世話になってる病院や介護施設にも、「自分が後見人になった事」を届け出ます。
その後は、家庭裁判所から定められた時期、方法に従って、財務管理などの事務を定期的に報告します。
そのため、大きな出費などがあれば、領収書を保管などして、いつ裁判所から報告の要請があっても大丈夫なようにしておきます。
また、保佐人の役割は、被保佐人の財産管理や契約などの「法律行為」なので、介護的なものではありません。
成年後見人の権限
対象となる方 | 後見 | 保佐 | 補助 |
申立てをすることができる人 | 本人,配偶者,四親等内の親族,検察官など市町村長 | ||
成年後見人等の同意権が使える範囲 | 同意権なし | 民法13条一項所定の行為
(注1) |
申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部 |
取消しが可能な行為 | 日常生活に関する行為以外の行為 | 同上(注1) | 同上 |
成年後見人等に与えられる代理権の範囲 | 財産に関するすべての法律行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」 |
注1) 家庭裁判所の審判によって、民法13条1項の行為以外の行為にも同意権、取消権の範囲を広げることができる。
保佐人については、こちらの記事で解説してます。
補助人については、こちらの記事で解説してます。
制人後見人の権限は、3つあります。
■ 代理権
■ 取消権
■ 追認権
成年後見人には「同意権」はありません。
保佐人、補助人と違い「同意権」がないのは、「本人から同意を求められる行為」その物が成立しない状態にあるからです。
その代わり民法13条1項の範囲外の事柄も、「日常生活の範囲」以外の法律行為全てに対して、強力な「取消権」を持ちます。
「日常生活の範囲以外の…」とは、例えば以下のような話です。
■ 貸してる土地の売却契約をしてしまった…取り消せる
■ スーパーで必要以上に、大量のリンゴを買ってしまった…取り消せない
まとめ
ここまで親族の人が「成年後見人」になったらという前提で書いてきました。
実は親族が「成年後見人」になれるケースは、ごく僅か「約2割程度」というデータがあります。
そう言う意味でも、出来れば「任意後見制度」を利用することをお勧めします。
任意後見制度は、家庭裁判所でなく「親族の中で後見人を決められる」素晴らしい制度です。
本人が認知症と診断されたとしても、軽度なら制度を利用することが出来ます。
詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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