2016年度の秋から、アメリカはハーバード大学の経営大学院で日本の新幹線の清掃会社の事例が必修教材をなるそうです。
ハーバード大学の経営大学院、つまりーバードビジネススクールといえば世界中から優秀な学生たちがMBA(経営学修士)の取得を目指し集まってくる世界屈指の名門校です。
対して、取り上げられた会社はJR東日本の子会社の「日本テクノハートTESSEI 」、通称「テッセイ」です。
テッセイは清掃関連の会社で、主に新幹線の車内清掃を受け持ちます。
この名門校がテッセイを取り上げ、しかも必修教材としてあつかうことになったキーポイントは「透明性」だったようです。
テッセイの立て直しを陣頭指揮したのは、JR東日本から取締役経営企画部長としてやってきた矢部輝夫さん(69才)です。
一方、ハーバード大学では、イーサン・バーンスタイン助教授とライアン・ビュエル助教授の2人によって、テッセイを題材にした教材「Trouble at Tessei (テッセイのトラブル)」(2015年1月出版)を共同出版されました。
このケーススタディー教材は学生からの受け高い関心と、テッセイの奇跡的な事例が大絶賛を浴び、今回の必修教材として扱われることになったようです。
テッセイが起こした奇跡
新幹線の清車内掃業務を行うテッセイ。
もともとは、「きつい」「汚い」「危険」の3Kが立派につく、目立つことのない存在でした。
スタッフ達も「たかが掃除」という低い意識のもと、暗く士気の上がらない環境下で働いていたといいます。
それが、今では・・・
清掃スタッフ達は自分たちの仕事を単に「車内清掃」と考えず、新幹線を利用するお客様の旅の思い出づくりの「おもてなし」と位置づけているといいます。
更に、ディズニーランドを運営する会社「オリエンタルランド」の社員が見学に来たり、CNNなどの海外メディアが取材に来たり、「奇跡の7分間」とか「新幹線劇場」とかのキャッチフレーズがつく程の大変貌ぶりです。
当然、現場スタッフの士気はあがり、今では各自清掃スタッフがポリシーをもって「自分たちがお客様のためにできることは何か」を考え行動できていると矢部輝夫さんは言います。
この立役者の矢部輝夫さんは、40年以上も親会社のJR東日本で安全対策の専門家として活躍されて来ました。
その後、テッセイの経営企画部に取締役として就任しました。
矢部さんからしたら全くの畑違いでした。
もともとは地味な「おそうじ集団」
前述したように、このお仕事は「きつい」「汚い」「危険」の3Kと呼ばれる現代日本では不人気のお仕事です。
入社動機も、「失業していて、求人があるのを見たから・・・」など積極的ではない理由で入社してきた人が殆んどです。
やる気に満ちた人が入社してくる事はほぼ無いそうです。
そして、現場では重く暗い雰囲気、たかが掃除といった使命感もないような職場だったようです。
そこで、矢部さんは配属されて最初の30日は徹底して現場に身を置き、スタッフはどんな様子で仕事をしているのか、仕事は何をどのようにしているのか、待ち時間ではどのように過ごしているのか、などを身をもって体感したそうです。
新幹線はの停車時間は13分、そのうちで清掃に掛けられる時間はたったの7分間。
その7分の間に高いクォリティーと迅速な清掃、椅子の方向転換などが求められ、さらに汚物などイレギュラーなケースも多々おこります。
そんな高度な作業を目の当たりにします。
矢部輝夫さんの現場主義で「地味なおそうじ集団」を「注目のおもてなし集団」に変革
スタッフの待機所はプラットホームの下にあるそうなのですが、矢部さんも自分のオフィスをプラットホームの下、待機所のすぐ横に置いたそうです。
最初、多くのスタッフは「この人は誰?」「なんでここに役員がいるの?」など不思議に思っていたそうです。
そんな中、矢部さんは現場スタッフの中にどんどん飛び込み、一人ひとりどんな人なのか、どのようなサイクルで働いているのか、どんな悩みや本音があるのか収集します。
矢部さんは「現場ありきの全員経営」をスローガンに現場からの前向きな提案には、ことごとく「yes」と言って提案を採用してきたそうです。
まず、ユニフォームを今までの地味なスタイルのものから、お洒落な明るいイメージのものに変えました。
さらに、スタッフから夏の装いは季節を感じさせるアロハシャツにしたいと声が上がればそれを採用したそうです。
また、現場では「礼に始まり礼に終わる」をモットーとしたそうです。
担当列車がホームに入る3分前には、ホームの端に整列し、列車に向かいお辞儀をします。
これもスタッフからの提案で、「お辞儀をしてみようよ」という声に賛同したそうです。
そして、降車してくるお客様に「お疲れ様でした」、これから乗車するお客様には「お待たせしました」と挨拶をするようになりました。
このような変化にお客様の評判も上がり始めたそうです。
しかし、そのような改革では必ず反対勢力が生まれます。
「私たちはただ、掃除をするために会社にきているのよ」
「そんな事まではやってられない」
そう言って、辞めていく社員も多かったと言います。
矢部さんはとにかく「テッセイの仕事は『おもてなし』『旅の思い出作り』である」と解ってもらえるよう努めました。
まず、主任たちに矢部さんの心を地道に説得し続けたそうです。
すると、矢部さんの知らない所で各主任たちは、精魂を込めてスタッフに理解を求めたそうです。
中には涙ながらに説得を繰り返した主任もいたという事を矢部さんは後で聞かされ感動したと言います。
それでも、評判が上がれば注目度も上がります。
次第にテレビなどで取り上げられたり、日経ビジネスなどで紹介されるような事が起こり始めます。
2013年8月に放映された関西のテレビ番組「口出しごめん!セキララ小町」でタレントの山口もえさんが新幹線の清掃体験をしました。
その時の山口もえさんのコメントで「みんなに見られている中でのお仕事で、劇場みたい!」というのがあり、そのことがキッカケで「新幹線劇場」という有名なキャッチコピーが生まれたそうです。
そうして先にも書いたように、有名企業の見学会、海外メディアからの取材などを受けるようになります。
「奇跡の7分間」という下の動画がYouTubeにアップされると世界中の動画を見た人が絶賛しました。
注:再生ボタンを押すと音が流れます。
ハーバード・ビジネススクールが注目したところ
イーサン・バーンスタイン助教授とライアン・ビュエル助教授の2人が注目したのは、2つ。
① 矢部さんが行った管理職である責任者自ら現場と溶け込み現場の提案を接客的に取り入れるボトムアップ方式と新しいことへの挑戦。
➁ 問題解決にはシステムの改革と同時に、それ以上に従業員の意識改革。
という事だそうです。
とにかく、日本が世界に誇れる事は多々あるのは事実。
よく、TVで耳にする「世界では○○だから」「グローバルに観ると○○は標準でない」など世界標準や欧米に右へ習えをする前に、日本の常識は本当に悪い事?と一歩立ち止まり、良い事なら「世界から変わっている」と言われようと貫くべきことは大事にしたいです。
今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
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